運送業で働いていたころ、私は二度、事故の当事者となりました。相手に怪我を負わせることはなかったものの、色々な方に心配や迷惑をかけてしまいました。
運転中に「ヒヤリ」としたり「ハッ」とした状況に遭遇したことは誰もがあると思います。結果としては事故にはならなかったので、そのまま見過ごしてはいないでしょうか。
私もそういった「ヒヤリハット」したものの「ああ、よかった」と胸を撫で下ろし、その後、特に何の改善もしませんでした。結果、事故は起こるべくして起こしてしまったと考えています。
1929年、アメリカの損害保険会社で一つの論文が発表されました。その内容は、工場で発生した5000件あまりを統計学的に調べた結果、大きな災害について1:29:300の法則が成り立つというものです。
「重傷」以上になってしまう1件の災害の背後には29件の「軽傷」の災害があり、「ヒヤリハット」した傷害とはなっていない300件の出来事があるというものです。つまり、ヒューマンエラーは避けられないものの、その小さな「ヒヤリハット」を無くせば大きな災害は避けられる可能性が高まるということです。
勤務先の研修制度がしっかりしていたので、事故のしばらく後には、事故を起こしたメンバーが集められて研修を受けます。そこで繰り返し言われたことは、事故を起こす人は何度も起こすし、起こさない人は全く起こさないものだと言うことです。
※交通事故総合分析センター「事故と違反を繰り返すドライバー」より引用
また、そこで言われたのは相手が100%悪い場合でも巻き込まれないコツを知っていれば、ある程度は避けられるとのことでした。私は反省し、考えを改めてからは「もらい事故」もありませんし「ヒヤリハット」もありません。
ここでは「事故を起こさない」「事故に巻き込まれない」コツ。それと万が一、事故にあってしまった際の注意点を紹介したいと思います。
もし、この後紹介する事故と同じような場面で「ヒヤリハット」した経験があれば、「相手が悪い!」で終わらせず、自分はどうすればよかったのかを考えましょう。
1位 | 追突事故 | 225,416件(35.8%) |
2位 | 出会い頭事故 | 156,086件(24.8%) |
3位 | 右左折時の衝突 | 79,307件(12.6%) |
この3つの事故パターンが事故類別で上位を占める状況は数十年来ずっと変わっていません。3位から検証していきます。
右折する際に交差点の真ん中へ斜めに停車すると、先端右側が対向車と当たる危険性や、万が一追突された際に走ってくる対向車の前に飛び出して大きな事故につながる可能性が出てきます。
また対向車の途切れた後に素早く行こうとすると、死角だったバイクをひっかけたり、その先の横断歩道を渡る自転車などに慌てて止まり交差点で立ち往生し後続の対向車に衝突されるなどの事例もあります。
ポイントは2つ。
1つ目は慌てないことです。交差点に真っ直ぐに停車することも、途切れ目の後の後続車をしっかり確認することも、落ち着いていれば防げるものです。
そして2つ目は目線です。対向車が途切れた後、左から右へ、横断歩道から歩道までを確認してから徐行して交差点を通過しましょう。
多いのは巻き込み事故です。対応としては3点確認(ルームミラー、サイドミラー、後方の目視)が絶対です。ときたまミラー確認だけで左折される方がいますが、後方の目視を怠ると斜め後ろなどの死角にいるバイクの存在に気がつかずに巻き込んでしまいます。
左折時の事故は往々にしてドライバーの油断が原因です。右折だけではなく、左折も意外と危険だと覚えておきましょう。
この交通事故を法令違反別に見ると常に上位なのが、「安全不確認」「脇見運転」「動静不注視」です。つまり急ぐ気持ちと油断が事故の原因となっています。
どんなに急いでいても見通しの悪い交差点では一時停止を守り、見通しの良い交差点でも脇見運転に注意しましょう。また裏通りや住宅街、さらに夜などは交差点の存在を見落としがちです。速度を十分落としましょう。
以上、ここまでは交差点の事故です。道路の形状別に見ると市街地の交差点での死亡事故が3分の1を占めています。相手のためにも、自分のためにも交差点は死亡事故が多い場所だと意識して通過しましょう。
減速した前のクルマに追突、または前車を確認せず青信号で発信して追突。携帯電話を使ったり、カーナビを操作したり、様々な機器の発達とともに追突事故は残念ながら件数が大きく伸びてきました。
昨今は法令改正などもあり減少傾向ではありますがトップであることには変わりありません。また脇見と同じように他のことに気が取られている状態として「イライラしている」「気持ちに余裕がある」状態も運転に集中できていないことがあります。
車間距離を取り、運転に集中する。これが大切なポイントです。
さて、この追突事故。自分は注意して加害者にならずとも被害者になる可能性があります。停車中に追突される場合など過失がゼロとされる場合であっても事故にあって気分が良い訳もなく、ヘタをすれば命が危険です。
こういったもらい事故を避けることはできないのでしょうか。
コツとしては「周りのクルマ(状況)の確認」と「周りのクルマに自分がどう動くかを分かりやすく伝える」ことです。以下の追突事故を例に取り解説します。
こういった事例では完全に後方のクルマが悪いのですが、前方のクルマにもできることはあります。
普段からルームミラーやサイドミラーを確認し、数台後方のクルマの動向なども含めて把握することが大切です。脇見運転などしているクルマは怪しい動きをしているものです。「あのクルマおかしい」と思えば「先に行く」「先に行かせる」「車線を変更する」など近づかないようにしましょう。
予告ブレーキや早めのウィンカーで「減速して左折する」と意図を感じさせること。また、後続車に前方を注視させるため、かなり手前から流れの邪魔にならない程度に速度を落としあえて後続車との車間距離を詰めることも有効です。
他にも「赤信号無視」「センターライン超え」などありますが、まとめると“もらい事故”にあわない人は、周りに気を配りいち早く危険を察知し、自分が次にどう動くかを周りへ伝えるコミュニケーションが上手い人だと言えるでしょう。
しかし、どんなに注意しても避けられない事故があります。また、こちらに非がないにも関わらず、相手が文句を言ってきたり、警察に嘘の証言をする可能性がないとは言えません。事故後の対応について、3つのポイントをご紹介します。
警察への連絡は必須です。その場で示談にしても良い選択にならないことがほとんどです。トラブルの元になります。
例えば自分が怪我で病院に運ばれてしまった場合、事情聴取は後になります。そうすると警察官が先に聞いた第三者の証言を鵜呑みにして、話が間違った方向に進む可能性があります。警察官が何と言おうと自らの記憶に従い証言してください。
自分の記憶違いも否定できませんが、警察官の意見が客観的事実ではない限りは妥協する必要はありません。また、納得できないのであれば確認の署名をしないことです。
任意保険に入ることは今や必須と言えますが、その適用範囲がどこまでかを確認しましょう。例えば、自分が過失ゼロの場合は保険会社の担当者に相手と交渉してもらえません。その場合には無過失事故特約が付いている保険特約に加入が必要です。
事故のための保険が、いざという場面で使えないと意味がありませんので要確認です。
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また、最近多いのがドライブレコーダーをつけていたため争いにならなかった例です。ワンボディ型、ミラー一体型、前後を映像に残すセパレート型など様々な形状があります。
事故相手のナンバーをしっかりと読み取れる「高画質」であることや、事故の位置情報をしっかりと記録する「GPS受信」など予算に応じてより良いドライブレコーダーを選びましょう。
感情のコントロールは必要ですが、何よりも大切なのはクセづけです。私は事故を起こしやすいせっかちな性格ですが、右折時の確認がクセがついたので、イライラしても歩行者や自転車が自然と目に入ります。恐いのは事故を起こすような運転に慣れてしまうことです。安全運転に慣れてしまえば、急ぎたくても事故を起こすような運転はできなくなります。
余裕のある日頃から事故を起こさない運転のクセをつけることが、事故を起こさない一番大切なポイントです。